【連載】映画と私たち「頷く人間」(ふじやまままこ)その5

対談する人

ふじやまままこ
60年代前半に東京で生まれる。広告会社、新聞社、出版社などを経てライターに。斎藤先生とは18歳くらいの時に一度会う。その後30代後半で再会。ウツや発達障害を抱えつつ、なんとなく生きている。

 

頷く人間

頷きって言うのかな、「うん」とか「はい」とか。これは人間しかやらない。赤ちゃんを抱いてるお母さんが子犬を見て、「あ、ワンワンよ」って、子供がそれ見て「ワンワン」って言ったとするよね、お母さんがその子犬を見て「可愛いわね」って赤ちゃんと目と目が合う。それで赤ちゃんが笑う。こういう動作はチンパンジ―にはない。だからこれは、赤ちゃんが犬を見てることをお母さんは理解してる、そういう理解してることを赤ちゃんもまた理解してる。そして「お母さんは犬を可愛いと思うんだ」と赤ちゃんは考えてて、赤ちゃんがそう思ってることをお母さんも理解してる、だから頷く。そこに言葉がなくても、目と目で「可愛いワンワンね」って言えば、 赤ちゃんは言葉わかんなくても、お母さんが何考えてるかはわかるこういう仕組みになってる。

―私のいた家庭は、母の表情が読み取れなくて、いつも瞬時に推測していました。今、何を求められてるんだろう、正解は何だろうと。いつも考えなきゃいけなかったから、なんか今でも、人とのコミュニケーションで、顔や言葉で表情に出さない人に対して、この人は何を考えてるんだろうと高速で推測して、そこに頭使っちゃってるから、ほかのことに頭が使えなくなります。さらにその推測が間違ってたりもした。

あなたの家庭、お姉さんも知ってるけど、最初に問題を起こしたのはお姉さんでしょ。
で、あなた連れてこられただけだから、あの辺のところからの記憶が全くないんだけど。

―20代から32歳くらいまでは、お会いしてないです。最初、先生にお会いした時期は、私は姉がこわくて、辛かった頃でした。でもあの時は、姉の問題で家族セッションで行ってたわけだから、そんなことは何も言えない。「この場所でウチの家族は、本当のことを言っているのかな。私のツラさなんて言えないし、誰にもわかんない」って思ってましたね。

そういえば諦めきった顔してたよね。でもこの子は文章家として、名をなすんじゃないかと思ってた。

―えー、あの時点でですか。18、9歳じゃなかったかな。お楽しみ会の脚本を小学校の頃に書いてたって言ったからかな。

いや、なんか知らないけどね、なんか書く人だと思った。

―でも私自身、自分は書く人じゃないと思います。隙間で生きてる人。

んー、ちょっとあなたは遠慮しすぎてて、図々しさっていうのかね。そういうのがない。でも結構、話を聞く能力があるから、インタビューアとしても、もう少し活躍できたんだね。

―それは誤解だと思います。

私は編集者と仲良しだけど、だからばななとかさ、有名な作家も知っているけど、いちばん面白かったのは、女性医師が男の子と関係を持つ小説『天使の卵』を書いてた村山由佳さん。神道とかさ、なんか霊に凝ってたんだ。私が知ってた頃はちょうどね。それで色んな所に出かけて行ってた。私の知ってる作家達って、結構そういう系が好きで、そこは私と合わないんだ。

―スピリチュアル系ですか

そうそう。なんか東電OL殺人事件のことで知り合った、佐野っていう…

-佐野眞一さんですね。クリニックで先生と対談しましたよね。

その人の周りにいた作家でここへ来た人がいたけど、なんていうのかな。発信力がないとは言わないけど、自分自身で何か考えて、まとめて出していくっていう。そういう意味の発信力ないね、やっぱり編集者の力なんだろうね、その人は。パッチワークはできるけど。

―あの男性の友人のライターが広告のキャラクターで有名なイラストレーターのゴースト(ライター)をやったんです。で、そのイラストレーターは、毎回3時間とか2時間とか取材に遅れてきて、いつもひと言も謝らないんですって。最初は驚いたけど、友人はもうだんだん気にならなくなって、もと藝大生に、藝大生には時間に来ない人が珍しくないという話を聞いたんだそうです。でも一緒に話を聞いてたもう一人の友人のライター(男性)が それを聞いて怒ってた。そんな遅れてきて謝らない人と一緒にやれないって。それはそうですよね。私は、謝らないその人を、羨ましいって思ってしまった。自分が悪いと思わない、自信があるからなのか。 私なら「すいません、すいません」って自分の失敗がひっかかって、そこから仕事に集中できなくなってしまう。私、発達障害のせいか時間の逆算が苦手すぎて遅刻しがちなんですけどね。
で、その友達のライターが言うには、そのイラストレーターには藝大の時の同級生が大手代理店にいて、その人がマネジメント的なことをやっているから、あれだけ成功したんじゃないかと。要するにそういうサポートしてくれる人を見つけるのがアーティストとして成功する鍵なんじゃないかって。

だから自分をマネージしてくる人も発見でしょ。私はね、まあ、あなたちょっと出遅れてるけど、だからマネジメントの能力っていうのはね、その人自身に馬力があるのが一番いいんだけど、それはちょっと足りないね、あなたにはエンジンをくっつける役の人がいるといいよね。

―最近まったくないですね。コミュ障すぎて。

あなたに何かそういうエンジンくっつける役の人をつけると、うまくいくと思うんだよね、なんか足りないんだね。

―すべてが足りないんですよね

色々ほら映画も見てるし、 ものを知ってるからね。

―いいえ、教養がないんです。いつも父や姉に言われてました。

それから、できれば文化ディファレンシアとして、その家から離れてね。自分の道を歩きたいと、そう思ったに違いないんだよな、あなたも。

―そうですね、だから家の人が誰も進んでない分野、芸術とかそういう方面に行きたいと思ったんですよね。

お姉さんは割と芸術的なことは興味ないんじゃない?

―最初はそうだったかもなんですけどね、最近は映画もすごい見るようになって、難しい映画なんかも好きですよね。なんでも突き詰めるタイプで、ナチュラルに血みどろの映画も好きな人なんですよ。

〈つづく〉