斎藤学との対談〈A.S〉
対談する人
A.S
1974年生・女性
物心ついた時から、「自分はなぜこの世に存在するのか」「いてもいいのだろう」が最大の疑問であり悩みであった。両親と3歳上の兄との四人家族。特に目立った暴力などはなく、たぶんフツーの家。
中学生までは成績もまあまあよく、スポーツもまあまあよくて、クラスではリーダー的存在で、いわゆる明るい良い子ちゃん。半面、小学生の時から万引き、自傷行為、中学生からは自己誘発嘔吐、飲酒、喫煙、朝帰りなどの行動が始まっていたが、どれも中途半端で「ばれて問題になる」ことはなかった。
その後は福祉の仕事をしたり、結婚したり、出産したり、離婚したり、生活保護をうけたり、精神科に入院したりしながら、なぜか今もこの世に存在しています。摂食障害の自助グループに出会い、斎藤先生を知り、ジャストにもつながりました。今も摂食障害、うつ病に加えフラッシュバックやら何やらに包まれながら生きていますが、ミーティングや仲間や子どもや新しい家族に支えらえられています。
A.S(以下、A):今日はよろしくお願いします。
斎藤学(以下、S):はいはい。テーマは?
A:斎藤先生と出会ったのが、先生が立ち上げた摂食障害者の自助グループなので摂食障害(拒食・過食・自己誘発嘔吐・偏食・下剤乱用など)をテーマとして先生と話したいと思いました。
S:はい。ではそうしましょう。
A:一つ目は食べて吐くって面白い現象だなあってこと。二つ目は身体疾患と関係あるのかなってこと。三つ目はいつから私は摂食障碍者になったんだろうってことなんです。
S:今の話の中で、面白いと思ったのが、食べて吐くのが面白いって言ったでしょ? それが面白いと思ったからそのへんからいこうか。
A:はい。
S:自助グループに行ったのは何年前?
A:3年前ですね。病名がついたのもその頃で。
S:あなた何歳?
A:もうすぐ49歳です。症状として食べたり吐いたり、下剤を使ったりは記憶している限り中学2年からなんです。
S:どこが面白いの?
A:はい。口から入れたものを口から出すっていう。自分で自分の指を突っ込んだり、数年前からは縄跳びの縄を突っ込んで、一時はホースを突っ込んで吐いたりして。
正気の沙汰じゃないし、なんでこんなことまでするんだろうって。もう時々自分でも面白いことしてるなって思っちゃって…。
S:動機が面白いの?
A:動機というか。そうですね。はじめは偶発的だったんですけど、その時のすっきりした感じがどうしても忘れられなくて。
S:すっきり感があったのね?
A:はい。
S:それは、脳の中で薬が流れている。そのすっきり感。けっこうやばい薬が流れている。
A:はああああ、薬。
S:アンフェタミンね。ヒロポン。覚せい剤ね。すっきりするでしょ?
A:はい! すっきりしました!!! 最初は。
S:ええとね。非常に出すのが難しい時に吐くと麻薬成分が出る。MDMAなんかは闇で売ってるけど、市場で買うと非常に高いし下手したら捕まる。
A:吐くとそれが出るんですか??
S:苦痛と同時に吐くことに成功すればね。
A:麻薬とおんなじなんですねえ……。
S:ただで手に入る。麻薬が。摂食障害と関係しているのがエンドルフィンとオキシトシンじゃないかな。オキシトシンがあやしい。オキシトシンはね、セックスに関連している。女性のオーガズムね。ボノボと人だけにボーナスとして出る。これはそういう時に出るためのものなのにゲロ吐くと出ちゃう。
10代の女の子がさ、家を離れる、父親や兄弟がうざったくなって、女の子同士で男を探す。これが本来はまともなんだけどね。
A:そうですね。思春期にはみんな好きな子ができたり、付き合ったりしてたんですけど。私の場合は、多毛症かもっていわれるくらいすごく毛深さで恋愛なんてあきらめてたんです。さらに身体疾患の話も絡むんですけど、側弯症という病気で脇下から股間あたりまでのコルセットというか、プラスチックの装具をつけていたので、とにかく恥ずかしいという思いや隠さなきゃっていうのが強すぎて。
S:何年くらい?
A:小学校高学年から中学校3年までですね。だから、異性を好きになる感情とか食欲を抑えつけられたから、摂食障害があるのかなあと思ったり。親の食事の与え方や体型についての考え方も含めて、摂食障害になるべくしてなったのかなあ、なんて勝手に思ったりしているんです。
S:それだけでは説明できないかな。
A:そうですかあ。
S:逆に言うと時代の病気と言ってもいい。デブっていうものを否定して時代がやせを求めてるでしょ。
A:そうですね。
S:縄文時代ならよかったのにね。あの時代は肥えてたら獲物を捕れる「リッチファミリー」だよ。
A:縄文時代!(笑)
S:隠れた動機がそこにあるの。生理学的反応ね。
A:はい。
S:無理をして食べ物詰め込んで、それが出ると「しめた」と思う。嘔吐習慣の基礎にあるのは脳内の麻薬の働きね。嘔吐以外でも出る、脳の中にはいろんな麻薬が用意されている。
A:麻薬…。麻薬を脳から自分で出してるんですね…。
S:そう。つらい状態で吐くことが快楽になる。それをどこかで覚えちゃうんだよね。繰り返していると。これを目的にしているからなかなか治らない。みんなさ、ゲロ吐いて憂鬱とかいうけど、あれ嘘だよ。
A:あはは(笑)そうですね。吐くとすっきりして、逆に頭がクリアになってかなり動けた。まあ、それは若いころですけど。
S:先に憂鬱や不安や対人恐怖や孤独があってね。それを食ってごまかして、太りたくないから吐く。
A:その通りですね…。でも、もう今は喉もマヒしてなかなか吐けないし、お金と体力だけ使っているのに、吐きたいって欲がなくならないです。どうしても。
S:じゃあ、やっぱり覚せい剤かなんか手に入れて方がいいんじゃない?
A:えええ。つかまっちゃううう。
S:あははは(笑)
A:私は、それだけ覚せい剤が必要なくらいの人間、っていうことなんですかねえ。
S:必要かどうかは別として、ゲロ吐きやっていると、出るからそれが目的になってるのよ。吐くために食べてる。
A:はあ。そうですね。吐くときは、今日は吐くぞって食べてますね。
初めは食べることにも幸福感やいいものがあったんですけど、それでも足りなくなってきたから吐くんですか?
S:うーん。さみしさがね。体の中に、胃の中に何か詰まることと、気持ちが孤独から離れることと全く別だろ?
A:はい。
S:身体感覚を概念に転嫁する、という嘘をついてるんだ。だから空腹を満たしている時間だけは独りぼっちから逃れられる。
A:そうそう、そうなんです。
S:食い物を対人化させて、ポテチさんありがとうみたいな(笑)
A:そうです(笑)お友達みたいな感じでした。
S:それは真の問題解決から迂回して、本質的な問題を避けてるわけね。そうすると一見社交的にいられる。
A:そうですね。外では、一見というか、むしろ社交的でした。頑張ってた。
S:嘘のためにね。無理してきたってこと。
A:ああ。じゃあ、私はずっと嘘をつき続けてきたんですね…。
S:そうしないと排除される、という恐怖があったんでしょ。
A:そうですね…。そうです。
S:そこがあなたの問題解決の基本なんですけどね。そこからが精神科の問題なんですけどね。精神科って、ほら5分でしょ。
A:はい、そうですね。私が自助グループを必要としたのは、みんなの孤独や虚無を充足させるには専門家じゃだめだと思ったから。私だって数十万人も充足させられない。
S:私が摂食障害の会をやりはじめたのはね、何かで摂食障害の話をしたら、「助けてください」って手紙が読むのがいやになるくらいすごい数が届いたから。みんな「助けてください」。だから、それについて、こういうことですよって、私が書いたものと手紙を載せた本を出したのね。『生きるのが怖い少女たち』という。権利が出版社に移ったら、手紙の部分が削られちゃったけどね。
A:そうですね。わたしもよく「助けてー」って一人で泣きながら吐いていました。「助けて」って言ってましたね…。
S:もともとは家を出たい、親を否定したいという気持ちは出てくるんだよ。それを押し込めてるからおかしくなる。今さ、なんかえげつないテーマのドラマがはやってるんだろ?
A:ええ、「あなたがしてくれなくても」ってやつですね。はやってますよ。
S:してくれなくてもかあ。あはは、えげつないねえ。
A:あはは。そうですねえ。
S:当たり前なんだよ。8割くらいは不倫しているって。
A:そうかもしれないですねえ。
S:家族を大事にしましょうって言ってる限りね。
子どもの反乱、反抗は個別化の問題だよね。一人で生きられるようにしましょうっていう教育をしていない。学校でそう教わったって、実際には家族の中でそれとなく心配しつつ、自分の中の性的なものの欲求とかを抑えていきましょうって調整されちゃってるんだよ。あなたの症状だってそうだよ。そして自分の子どもにもそうしていく。
A:ああ。そうかあ。私の場合は幸か不幸か、子どもと離されたのでよかったのかもしれないと思ってるんですけど…。
S:親から離れてもさ、社会そのものが小説や漫画でも家族はいいものだって仕向けてますからね。
A:そうなんです!! そう! 私、それをもろに信じて生きてきたんです。それをもう信じて疑わなかったので…。だから息苦しかったんだと思います。
S:そういうのを家族神話っていうんだよ。
A:ええ。それって信じちゃうんですよね。ほんとに信じちゃった。
S:私みたいな家族解体論者ってのはね、まだまだマイノリティで、言うこと自体が禁じられている。家族の、みたいな本は絶対増刷されない。世間が反発しちゃうの、読むと。
A:はい。私は、すごく家族神話とか、斎藤先生のおっしゃってることがしっくりきて。解決はしていないけど、なるほどって思ってすごく気持ちが楽になったんですよね。
S:うん
A:では、コルセットとか身体疾患とかよりもそっちですかね。昔のコルセットでドレス着ていた時代も嘔吐してたのかなあとか思ったりしたんですけど。
S:中世のコルセットは下水道の問題、排せつの問題で都合が良かったからだからね。
いろんな人がいろんな問題抱えているからね。特にあなた自身だけの問題とは思わないよね。もっと普遍的な、家族そのものの一般的な家族の中の反抗、問題と考えたほうがね。概念性は高い。
A:なるほど。反抗の一つ? 反抗の一つが摂食障害?
S:あなたの場合は個別化っていうんだよ。
A:親は気づいていたのか気づかないふりをしていたのか、私も隠してしていたので…
S:いやあ、今、家族の中の個別化は反抗としてしか受け止められませんよ。難しい年頃だからね、とかになるよね。
A:ええ。めんどくさい子だなって感じでしたね。いろいろやってみたんですけどね、どれも空振りに終わった。
S:もっと反社会的なね。援交とかせめてタトウー。このあたりですよね。非社会的なことね。ほんとはね、自分の中の社交性、社会性、柔軟性とかを遮断しないと本当には治らない。個別性を重視してね。
A:もっと、ぶっちぎればよかったですねえ!(笑)
S:そういうのやれば摂食障害にはならなかったかもしれないっていうね。
A:ああ。ああ。そうかもしれないですね。
S:あなたの側弯症だって、コルセットしないでもっと曲がってれば面白かったかもね。老化だって個性でね。面白がらないとだめなんです。
A:全部中途半端で抑圧してきたってことですねえ。
S:そうね。でもね、あなたが摂食障害やってきたってことは、実は目立ちたがり屋なんだよ。
A:そうですね。そう。注目浴びたいです。ふふ。
S:目立ちたがり屋なのに、目立たないようにしてるから。
A:ギリギリのところで全部隠してるんです。自分を隠しているんですよね。
S:せめぎあってるのね。
A:はい。そうせめぎあってます。
S:私はね、そういうのをね、中途半端にするなって言ってるの。性格として反抗的じゃないからダメなの。私はね、すごく恵まれた家で恵まれた育ちしてるの。だけど家族はダメだと思ってるの。私は十分かわいがられてもらうものはもらってきた。その上で家族はダメだって言ってる。14、15歳の時に感じた不自然さをちゃんと自覚しているの。体が記憶していることに関して、無いことにしていないのね。これは不自然だって。
A:ああ。兄はたぶんそれに気づいてたんだと思います。
S:まあ、男の子はやせることに価値をおかれてないからね。逸脱の仕方も違う。ちょっと頭のいい子は社会秩序そのものへの疑問をもってね、自分の親の馬鹿さっていうのをすごくわかったりしてね。相手にしなくなる。
A:そうそう。そうなんです。兄はそうでした。今思うと途中で気がついて相手にしなくなってた。私は気がつかなくて、中途半端に反抗して自分を傷つけてって感じでした。抑圧ですねえ…。
S:体型も個性だからね。それを今やってるのは当事者研究ですよね。見えない、しゃべれない、を表面に出して、それこそ自己発見から自己表現をしていこうってね。ちょうどそれと逆向きなのが、摂食障害自助グループにつながる前にあなたたちが普通になろう、普通になろうって葛藤している。一方で個性化したくって葛藤している。そのへんに気づくのがまず一番大事じゃないかな。
A:そうですね。やっとそれに気づいて摂食障害自助グループやJUSTのミーティングに出て変化しているので考えていきたいです。
S:じゃあ、今日はこんなところでね。
A:はい。ありがとうございました。