【連載】映画と私たち『メイ・ディセンバー ゆれる真実』女性の年の差恋愛〈その1〉(ふじやまままこ)

『メイ・ディセンバー ゆれる真実』
監督:トッド・ヘインズ 出演;ジュリアン・ムーア、ナタリー・ポートマン、チャールズ・メルトンほか

36歳のグレイシーはアルバイト先で知り合った、13歳の少年ジョーと不倫をし、実刑を受けた。ジョーとの子どもを獄中で出産、刑期を終えて二人は結婚し、平穏に暮らしていたが、事件の映画化が決まり、二人の家へ、女優のエリザベスが彼らと生活をともにし始め、事件のことを探ろうとするうちに変化が起き始める。1996年、アメリカで実際に起こった事件をモデルに描く。

 

対談する人

ふじやまままこ
60年代前半に東京で生まれる。広告会社、新聞社、出版社などを経てライターに。斎藤先生とは18歳くらいの時に一度会う。その後30代後半で再会。ウツや発達障害を抱えつつ、なんとなく生きている。

 

米国に衝撃を与えた年の差恋愛

―世界でも知られているメイ・ディセンバー事件をモデルにした映画ですが、これ一応フィクションなんです。

グレイシー(ジュリアン・ムーア)は、出所後、ジョー少年との間に子供を二人産むんだよね。ただし、この映画ではグレイシーが元教師だったことは言っていなかったと思う。モデルにした事件から離れようとしているんだろうね。結婚したものの、捕まった街にそのまま住み続けている。だから街のレストランでは、別れた旦那と元家族(自分の息子や娘)と出会ったりするんだね。彼女は町の人に嫌われたくないもんだから、とにかくしょっちゅうバーベキューパーティーをやって、そこに人が来てくれると安心して、「私はこの街の住民だ」と思うんだ。 元少年も今は40歳になってるんだけど、本当に物が言えない。ただ呆然としてて、蝶になる前のような昆虫を、四角いガラスの水槽で孵化させるものの、その地の絶滅危惧種ゆえに、成長したら解放するみたいなことをする以外にほとんど仕事をしてない。妻には「寝室にそれを置くな」とそればかり言われて、本当に退屈そうな顔してるよね。

―生きてんだか死んでんだかって感じですね。

それからグレイシーがエリザベスに鏡の前で自分式の化粧を教えてると、エリザベスが段々とグレイシーに似てくるシーンが印象に残ったね。

―エリザベスは役作りの体でグレイシーの元へ来て、彼女になりきろうとする。誰かと同化するというのも映画のテーマのひとつみたいで。

で、そのうちにエリザベスはグレイシーの夫ジョーを誘うんだけど、ジョーはじっとしてるだけ。彼女の方が積極的で、結局は関係を持つ。あのスピードがすごかったね。

―すごい速度でことが終わっちゃいますね。あれは34歳の女性が相手にした13歳の男の子が、性的に特別じゃなかったってことですよね

あれは面白かったね。取材であそこまでやる人もすごいな。

―旬の過ぎてる女優のようなので、役に賭けてるってことでしょうね。

ジョー役の俳優はモンゴル系だね。

―実際の元生徒はサモア系で、チャールズ・メルトンという俳優は韓国系みたいです

そう。大体、遺伝形成が外へ出るのが優勢で、遺伝子は父も母も双方が持っていれば発現するっていうね。顔とか髪の毛はどうもヨーロッパ系の方が優勢じゃないかと思うんだ。ハーフというか、ミックスの人を見ると、たいがい顔が日本人離れしていて、「これは日本人の顔だな」っていう人はほとんどいない。ところがアフリカンとミックスするとすぐわかる。日本人の和種っていうのは、痕跡としてあまり残らないんじゃないかと思うね。ヨーロッパ系と間の子どもは、顔がヨーロッパ人に近づくような気がする。

―そう言われるとそんな感じも。
で、メイ・ディセンバー事件のドキュメント番組をみたんですけど、 実際の事件のメアリーはツインテールしてすごく子どもっぽい印象を受けました。映画でもグレイシーが、年下の夫の前で子供っぽく振る舞うシーンがあって、さらに「二人の関係においてボスはジョーだった」と彼女が言うんですけど、これ実在のメアリーの発言らしいです。この人、何がしたかったん?と思う。で、グレイシーが「あなたが誘惑したんじゃないの!」って、当時は13歳だった夫のジョーに言いますよね。

わめくよね。だから恋愛って子ども返りするものかもしれないんだけど。
それにしても男の教師が小児性愛者で、女児をたぶらかしたとかいう事件はしょっちゅう新聞の種になるけど、年上女性と生徒っていうのはほとんどない。実際はもっとあってもおかしくない。

―そうですね。でも男性優位の世の中では、特に日本なんて年上女性は差別されがちだから、女性が極端な年下を相手にすると、批判されると思ってあまりいないのかも。
グレイシーって人は実はジョーをコントロールしたいんですかね。

いつもがみがみが言ってるよね。虫を家に入れるなとか、ソーセージを何本焼けと命令したり。結局、町の人に受け入れられてることで、自分が存在していい、許されてるって思える。街の人は、本音では出ていってほしいんだよね。子どもたちもそれを薄々感じてるところが、エリザベスが来て昔の事件をほじくり返す。結局、長子が大学を卒業して故郷に帰ってくるけど、就職して遠くへ行っちゃうんだろう。で下の子も高校を卒業して出て行くんだろうと観客に思わせてるように作られてる。

 

グレイシーとジョーの関係

―子どもたちがいなくなると明らかにグレイシーはおかしなことになってますよね。

この人は病気なんだろうね。少なくともエリザベスは、どっかで狂気を見抜いたんだよね。それがわかるところでは、「役を演じてる時に、その人の一番肝心なエピソードと、同じ境遇になる」って言うセリフがあるよね。役者の宿命というか。同じメイクをするシーンでは、だんだん心がトランシエントっていうか、本当に顔似てくるでしょ。メイクってすごいよね。

―そうなんですよ。あと、「バーベキューなのにホットドッグがきれてる」とか言って、不穏な音楽が流れて、グレイシーがこの世の終わりみたいになりますよね。あれでなんだかちょっとヘンな人ってことがわかるんですけど。これ私も電車をぎりぎりで一本逃した時とか、ちょっとしたことで絶望的な気持ちになることがあります。なんでああなっちゃうんでしょう?

やっぱり狭い地域で自分の仕事をすることで精神の均衡を保ってるんでじゃないかな。ある家からケーキ作りを断られたら、「引っ越すから」と相手が理由を言ってるのに、すごいあたふたするじゃない。だからあの元少年だった男からすれば、ずっと崩壊しそうな女性を支えてきた。それを女性のほうは誘惑されたと捉えてる。

―彼女は夫になった生徒が支えてくれると見抜いて、ロックオンしたんですかね。私の知るメンヘラ女子の彼氏も、そういう優しくて振り回されてくれるタイプが多いように思います。メンヘラの人は見抜くんじゃないかな、この人なら支えてくれると。
あ、でも私も先生に以前、姉が私のことを「メンヘラ女」って思ってんじゃないの?と言われましたけど。

本質的にそうかはわかんないけどさ、一見自分を隠そうとするじゃん。私はこういう人だって言ってコントロールや宣伝するタイプではないよね。

―あー見られたいイメージが自分でもよくわからない。それに本質がバレた時のギャップもいやだし。

ハムレットは本当に病気だったのか狂気を演じたのかわかんないじゃない。で、あなたもどっかそういうところがあって、弱くて判断力がないという行動をしている割には、好き嫌いがはっきりしてる。

―嫌なものは嫌ということにしています。でもここ数年、会社の人間関係とかは、好き嫌いとかを考えないようにすると、うまくやっていけるんだと感じてます。

生存の可能性が高くなるんだよ。一か八かっていうのは危ないでしょ。どっちに転んでも私だけは助かるわ、みたいな。作戦的にね。

―生存の可能性? なるほど、しかしそれずるい人じゃないですか!

ていうか、その人なりにコスト払ってるんで。つまりもう少し、書いたり流しててもいいのに、成功することは危ないと思ってるんだね。

―私が? あ―うまくいくはずないっていつも思ってるだけですけど。

有名になんなきゃファンが来ないしさ。

―周りの人にもなんかやったらいいのにと言われていたけど、力が出なかった。
年の差恋愛って、相手がなんでも許してくれるから、年下は楽ができそうって過去には思ってたんですけど、。でもメイ・ディセンバーは、実は逆だったみたいな感じもある。グレイシーが子どもみたいにギャンギャンわめいて泣くシーンがあって、そういうこともあるのかって。それほどの年下と恋愛したことがないもんで発見でした。

立場が逆転することがある。男女二人の関係になると、自分たちがそれぞれ持っている親子関係が、それぞれプロジェクトされてくる。これはね、年の差とは関係ないんじゃないかね。恋愛の相手にいろんなものが映るわけでしょ。自分が育ってきた環境で。

―そこに関係してくるのかあ…

 

メイ・ディセンバー事件のメアリー

メアリー・ケイ・フアラアウ(Mary Kay Fualaau, 1962年~2020年)は米国の元女性教師。当時34歳だった彼女は当時12歳の男子生徒ヴィリ・フアラアウと不倫関係となり、児童レイプの罪で懲役7年の実刑を受けたが、後にヴィリと結婚。獄中で一人、出所後に二人目の娘を妊娠・出産した。その後二人は離婚し、2020年にメアリーはがんに罹患し、死去。