【連載】映画と私たち『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』「PTSDが人生をトランス状態にする」(ふじやまままこ)その23

『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(Killers of the Flower Moon)は、2023年のアメリカ合衆国の犯罪映画、修正主義的西部劇。監督はマーティン・スコセッシ。主演はレオナルド・ディカプリオ。共演はロバート・デ・ニーロ、リリー・グラッドストーン、ジェシー・プレモンス。本作でスコセッシとディカプリオは、長編映画6度目のタッグとなる。
1920年代のオクラホマ州オセージを舞台とし、石油鉱業権を保持し、高い利益を得ていた先住民オセージ族(英語版)が次々と謎の死を遂げる事件を描く。(Wikipediaより)

 

対談する人

ふじやまままこ
60年代前半に東京で生まれる。広告会社、新聞社、出版社などを経てライターに。斎藤先生とは18歳くらいの時に一度会う。その後30代後半で再会。ウツや発達障害を抱えつつ、なんとなく生きている。

 

「PTSDが人生をトランス状態にする」

―先日、『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』について、拙いながら先生にお話ししたところ、L.ディカプリオ演じる主人公アーネストについて、
「彼は戦争帰り?だとすると帰ってからの人生そのものが、トランスに入ってる状態じゃない? ボーッと生きてて、言われたことをとりあえずやるだけで、主体がなくなってる。そのために目前で起こることの原因や結果の見極めがつかない。 時間の経過を感じられずに、瞬間でしか生きられないんだろうね」
このコメントにすごく納得できました。その後、実際に観ていただいて。

 

映画は観たし、原作の本(ディヴィッド・グラン著,倉田訳,『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン: オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生』,早川書房,2023)も読んだ。僕らは別に映画評論家じゃないから、映画の良し悪しはどうでもいいとはいえ、最近見た中でも出色だな。ただあの長尺だから2回トイレに行った。2回目がエンドロール流れてからで、そのまま外に出ようとしたら、カバンの中の薬がない。落としたかなと、大勢の人が劇場を出る中を、川の流れを遡るように歩いて…

 

―鮭のように?大変でしたね

そうそう鮭のように遡っていったら、やっぱり薬は座席下に落ちてた。シネコンは廊下が長いね。入場時もQRコードをかざしてくださいとか色々言われたけど、どこだかわからず、「どこ?」とか言ってたら、スマホを取り上げられて。「こうです」とやってくれた。やっと入場してからは奥にある劇場まで延々と歩いて、ようやく着いた。

 

―システムに慣れるまでは数回かかりますね。それにシネコンは確かに歩きます。にしてもこの映画、飽きないとはいえ、4時間はいくらなんでも長すぎ。「キラーズ~」は原作もお読みになったんですよね

アーネストはやっぱり復員兵で、詳細はなかったけど、1920年代の事件だから第1次大戦の終わりかな。腸を撃たれて内臓を傷つけられた復員兵とあった。だからPTSDで情感が鈍くなってるのは確かだね。

 

―当時、トラウマの概念はなかったからですか

今、精神科領域で問題になっているトラウマはベトナム戦争で生まれた言葉で、認識されたのは1965年以後だね。19世紀末から20世紀にかけても一時期話題になっていたからね。
僕らはこの意識世界で、時間的な前後関係とか、あの人が悪いから困ってるとか、危ない人だから避けよう、とか。自分が逐一イメージしたことに、さらにイメージを重ねてストーリーを作り、危険を避けて生きてるんだけど、彼はそれができなくなってる。

 

―イメージを積み重ねることで、私たちは危険から身を守るのか。つまりアーネストはヤバイおじさんが、自分や家族を危険な状態に追い込んでいるのに感じてない。

それから妻のモリーに、あの量のインシュリンを打ったら死んでるはず。だから注射の中は向精神薬みたいなものだと思う。

 

―おじさんのヘイルはサイコパスですかね

ヘイルは「人のお世話をする」みたいな点が、ヨーロッパ人の典型だね。環境保護、石炭、石油関係のものを使うなとか、グリーンエコロジーとか言いながら、中国の空気汚染は無視して取引しようとしたり、自国の油田で儲かった金で、ノルウェーとかスウェーデンで国民に電気自動車を使わせるとか、矛盾だらけの政策やって、自分のところはエコだとかね。

 

-自国がエコになるためには他国やその過程はしらないって感じですね

彼は、自分が全世界の人を導く、教化するみたいに思ってる典型みたいな人。だってヘイルはインディアンの言葉も話せる。

 

―そこまでやるかって感じですよね。町の世話役のようにオセージ族の懐に入り、「オセージは友達だと思ってる」と言って信頼させて、陰ではお金を奪うために彼らを殺してる。

石油業をあえて避けて牧場を営み、石油とは無関係みたいな顔をしてるけど、地権者は誰かをよく知ってて、全部の金を奪おうと画策する。

 

―でもヘイルは牧場を始めたとき、人の何倍も働いて財産を築いたみたいですね。その頃からお金のことだけ考えてたのかな。

すべて悪ですよ。悪の権化。でも化けの皮ははがれる。有名じゃないけど当時のクーリッジ大統領(1924~1927の間)から勅令が出たり、エドガー・フーヴァーという人がこの事件をうまく使っFBI(連邦捜査局)ができて、ヘイルたちが捕まったり…。一応、ネイティヴたちの保護に踏み出したわけ。あの映画の原作を読むと、実態はお粗末なものだったようだが。で最近、と言ってもブッシュパパの頃かな、ネイティヴたちを居留地に追い込んだことに謝罪し、そこでのカジノ設置を許可するんだよ。カジノは石油みたいに思われてた。

 

―それはお金を産むということで?

そう。ところがそのために居留地にカジノができすぎて、ニュージャージー州のアトランティックシティにあったドナルド・トランプのカジノが潰れてね。ラスベガスを除いてカジノ産業全体が赤字になってしまった。だからカジノに金持が集まって儲かるなんてのは無理な話。日本も大阪にカジノ(IR=Integrated Resort)を作る予定を言ってるけど、多分大赤字になるね。

(続く)