【連載】映画と私たち「ジョーカーになりたい時もある」(ふじやまままこ)その14
対談する人
ふじやまままこ
0年代前半に東京で生まれる。広告会社、新聞社、出版社などを経てライターに。斎藤先生とは18歳くらいの時に一度会う。その後30代後半で再会。ウツや発達障害を抱えつつ、なんとなく生きている。
ジョーカーになりたい時もある
-ちょっと前の作品で『ジョーカー』についてなんですけど、私にはこの作品、インパクトありました。先生は『ダークナイト』『ダークナイト ライジング』を取り上げていたので、選んだんですが、最新作の『ジョーカー』はお好きでない?
クリストファー・ノーランの2作がいいね。ジョーカー役はね、ジャック・ニコルソンが強烈で一番よかった。
-ティム・バートン版の?ジョーカー役はみんなすごい俳優ですよね。ホアキン・フェニックスもヒース・レジャーも。
ジョーカーをモンスターとして認識してたのに、最新作では売れない喜劇役者で、親の介護をしてるとか、すごく人間臭くなってて…。
-なるほど、確かにホアキンのジョーカーはヤングケアラーで、お母さんをずっと介護してて。お父さんが誰かわからないけど、どうやらバットマンことブルース・ウェインの父じゃないかっていう話でした。
頭のオカシイ人として世間で扱われてた母が、恨みをずっと抱えてて、息子を虐待してたと解釈できる映画だよね。
-そうでしたね。『ジョーカー』では、家ではいい子で、母の面倒も厳しいのにしっかり看るし、仕事もそこそこやっていて、でトゥレット症候群になってる。
うん、トゥーレット症候群。
-あれって劇中では、まずいシチュエーションで笑っちゃうという表現でしたけど…
動いたり、跳び上がる。ひどい時は天井にぶつかるんじゃないかってぐらいに。それにハナクソとかウンコとか性器の名前とか、静寂な場所で叫んじゃったりする。
―最も言っちゃいけないタイミングで言うんですね
儀式なんかでシーンとしてる時に突然、衝動的な声が出て止まらなくなる。
私も長く臨床してて、トゥーレットって診断つけたのは、ずっと診ている患者さんがひとりしかいない。
―珍しい症例なんですね。
その人を含め、会ったのは4~5人。神経症やてんかんの患者を診ている医者は多く出会うだろうね。
―そういえばジョーカーは服薬してましたけど。
あれは抗てんかん薬で結構治まるというか、症状はぼやけるんじゃないかな。
―そうなんですね。以前先生に「ジョーカーみたいな気持ちにならない?」って言われたんですけど、あれは犯罪のようなことを起こしたくならないか、そういう意味で言ったんですか(笑)?
犯罪っていうか、ちょっと派手なことだね
―それはつまり、目立ちたくならないかってこと?
自己顕示っていうかね、他の人の作品ばかり見てて、自分で演技するとか自己顕示的なこと、または裏で支える仕事、人はそのふたつのどっちかをやると、もう片方をやらない。自己顕示を演出する人と何か作って見せるって人と、自分がどうしても自己顕示的になる人がいるわけだ。典型的なのはアメリカの前大統領みたいな、勝手に自己顕示的な人。誰が見てもわかるっていう人は少ないんだよね。みんな抑制が利いてる。
―その抑制が利かなくなっているのが、トゥーレットですか。
そう、抑制の障害だと思うんだけど、逆にトゥーレットみたいに神経系じゃなくてね、心の問題でも抑制と表出はバランスをとって動いてる。えてして僕らの社会が、共同協調性とかね自己抑制ってのを求めてるもんですから。
日本は270年も、自己顕示が良いこととされなかった。もっと言えば当時3500万も人口がいる島でね、あんなに自己抑制を尊ばれた、平和な時期を共有していた民衆っていないんだ。ユーラシア全体が荒れ果て、戦争ばかりしていたから、派手な人が目立ってたわけ。その中には大航海時代なんてのも含まれてて、ピサロみたいなのが150人ぐらいいて、インカ帝国の数百万の人を殺したり、奴隷化したり。
-そういうのも自己顕示欲ってことですか。
うん。字も読めないのに鉄砲を持ってた。『銃・鉄・病原菌』って本があるじゃない。
―これかな(検索する)「ユーラシアやアフリカの文明がなぜ生き残り、ほかの文明を征服してきたのか」という本ですね。
その3つ(銃と鉄と病原菌)があったから中米と南米の大国2つを滅ぼしたんだね。
〈続く〉