【連載】映画と私たち「自分から発信する人は」(ふじやまままこ)その1

対談する人

ふじやままこ

60年代前半に東京で生まれる。広告会社、新聞社、出版社などを経てライターに。斎藤先生とは18歳くらいの時に一度会う。その後30代後半で再会。ウツや発達障害を抱えつつ、なんとなく生きている。

 

自分から発信する人は

―先生の下で勉強した人のなかには、クリニックを開業したり、カウンセラーを始める方もいらっしゃいますね。クリニックには高学歴の方も、多いですよね。

開業する人は、みんなが高学歴というんじゃなくて、あなたとそんなに差はない人もいるんだけど、自分から進んで開業するんだよ。私はそれに免状を出すって役割をしていて、開業すればひとつの商売になる。学位じゃないんだけど、私の作ってる学会の認定書、その他に国家が決めてる公認心理師っていう制度もあるから、それを取ってりゃいいんだよね。

―取るのは大変だと思いますけど、私が同じように勉強したとしても、開業まで持ち込めるエネルギーや自分で起業しようという発想がないので、そういう方は仕事とかもきちんとできる人なんだろうなと思ってしまいます。

勝負させるというか、クライアントには自信を持たせて、「自分で何かやろう!」と思うようにするのが私の仕事なんだけど、あなたの場合、それがうまくいかなかった。大作家にしようと思ったんだけど、全然なろうとしないんだよ。 東京の女の弱さかなあ。周囲が才能に溢れてる人ばかりだから、あるいは顔になんか打ってる女とかさ。

―あーアンチエイジングでヒアルロン酸を打ってた女性が同僚にいましたね。そういえば彼女は地方都市の出身で、「東京は勝負する場所」だって言ってました。勝負されてる場所で自分が生きてると思うと、疲れます。

そういうのに押されちゃって、負け犬を自分で認めちゃってる。

―はぁ、確かにそうですね。そういえば昔から、札幌の人以外なんですけど北海道の人って、みんな自信にあふれてる、って感じてたんですよ。なぜですかね、隣家と距離が遠いとか…

牛が4万頭で、人間が2万人で、お隣の家に車で行くような土地にいれば、他人と比べる必要がないでしょ。だからやっていけたわけよ。

起業して成功するっていうのも、みんな他人の子供のことなんか聞いてくれないでしょ。だから決死の覚悟でさ、2時間とか4時間かけて、自分の住む町から雪ん中をね。大きな街へ遠距離を車で走って行ったってさ、そこにある精神科で診てくれてもわずか5分。「ちょっと不登校で」なんて言ったって、「そんなのはどうにかなりますよ」と言われて、みんな自閉とか、多動性障害とか、そんな診断されて、お決まりの薬を出されてね、なんにもなんない。そこいくと、半日かけて来てくれて、「この子と直に話してください」と言えばね…。

―遠路はるばる出かけて行っても、斎藤先生の指導を受けたカウンセラーとかなら、意味があるということですね。

そこは東京と違うんだよ。東京だってね、「こちらから訪問しますから」と言えばさ、ちょっと変わったセラピストとして機能する。日本語が話せれば、誰でもやれるけどね、でも多くはやんないんだよ。国家資格を取った人が、じゃあやるかっていうと大体の人はやらないね。公認心理士の試験なんていっぱい受けててさ、私の下でもう十数人は資格取ってる。

―開業して成功している人はすごいっていうか、やっぱり強さがある?そこまで行くのが心的にハードル高いです。

だから最初から負けてるから、負ける。

私が育ててきた人、例えばEさんにしてもNさんにしてもみんな、自分で開業したり、本を書いたりで、結構有名になってるじゃない、私は自信を持たせるのが仕事だからさ。有名になれば、自動的に患者さんは来るんで、困ってる人を見ればできる仕事だからね。だけどやり方がちょっとさ。私みたいにここに座ってて、来る人を相手にしてるっていうのは全然ダメだよね。もっと自分から出ていかないとね。

〈つづく〉